2019年よかった小説&映画まとめ
信頼できない語り手という言葉を憎んでいた。信頼できない語り手というのは魔法の言葉だ。なぜならそう指摘するだけで何かをした気になれるから。ゼミで、読書会で、はあ、それで何なんでしょうか、と何度思わされたことかわからない。信頼できなかったら何? 何が言いたいの? 信頼できないのは原理的にそうって話であって、前提として軽く通りすぎていくべき話であって、そこから矛盾を詰めていくとか欠損していると思われる事項を割り出したりするでもなら指摘しないほうがマシでしょ、何なの、とずっと思っていた。他のことについて話した方がなんぼか有益か。
小説や映画の話をする時間がこうも取れないとそんなことすら懐かしく思える。
話ができないだけならまだしも、小説や映画について真面目に考える時間を取ることすらできない一年だった。読書に使える時間は通勤中の一時間ちょっとと頑張って昼休みくらい。映画なんか平日は疲れてしまって、とてもじゃないけど見れない。そのくせ私は数をこなしたいと思う性質なので、そうなるともう読むのも見るのもどんどん雑になっていく。
何もわからないまま文字を目で追っている時がある。数行経ってから我に返り、読み直す羽目になる。栞を挟まずに持ち歩いている本だと同じところを二回読んでも気付かないような、そういう読み方しかできない。映画も似たようなもので、見ているはずなのにプロットさえ追えないということが何度も何度もあった。
信頼できない鑑賞者。
そういう状態なので、あらすじの紹介すらおぼつかないけど、まあ……やっていきましょう。2019年ベスト。
🐂2019年に読んでよかった本
えーとね、上にも書きましたがね、時間的にも体力的にも色々厳しい一年で、70冊くらいしか読めておりません。しかもうち25冊くらい大河少女小説。しかも新刊はほとんど読んでない。なぜならお金がないし、積読がたくさんあるので……と言いながらもほとんどが買った本。ジュンク堂の海外文学棚に行くと打算的に意識を失って1万円くらい吹っ飛ばしてる。
斜字は読書メーターの感想。今の私が何か書くよりいいでしょ?
🐮佐藤亜紀『黄金列車』
ユダヤ人財産を管理する部署に不幸にも飛ばされてしまったハンガリーの官僚たちが、いかにして戦後(たぶん物語開始時点でナチス敗色濃厚)に申し開きできるような形で言われた仕事を丸く収めるか、というのを文官の手練手管でやっていくんだけど、
— 暴力と破滅の運び手 (@violence_ruin) December 21, 2019
なんていうかもうこの時点で救いがない話。贈賄とか接収とかを最小限にして物品管理もしておかないと戦後自分たちが首くくることになって困るから、その辺と野盗やらSSやらとの交渉のバランスを取らなきゃ、ってところが表の力点。
— 暴力と破滅の運び手 (@violence_ruin) December 21, 2019
ただここにある人物の回想(全体は三人称で語られ、いわゆる視点のようなものは何人かの間をさまよい続けるが、モノローグはおもにこの人物とタイピストの女)が入ってくる。死んだ友人夫婦(夫にユダヤ系の血が入っている)と死んだ妻についてのPTSD的な回想が現在の時系列と継ぎ目なく挿入される。
— 暴力と破滅の運び手 (@violence_ruin) December 21, 2019
花は要所要所で回想の中に配置されていて、基本的には無機物である財産と対照を為しているように見える。この話の中で生きているのは花と子どもと悪党たち。
— 暴力と破滅の運び手 (@violence_ruin) December 22, 2019
それは亡霊による語りのようなもの。彼らの死について考えるともなく考え続けてしまう男の透明で悲しい声が、申し開きや交渉を力強い声の合間にオフステージで響いてくるような感じ。
— 暴力と破滅の運び手 (@violence_ruin) December 21, 2019
まだ一読しただけで、ちょっと筋を追いきれていないところも沢山あるけど、それでもやっぱり挙げずにはいられない。京都大学で2018年に行われたという歴史小説に関する講義の講義録も読んでみたい。
🐮ジョナサン・リテル『慈しみの女神たち』
佐藤哲也先生の書評を読んでほしい。私が何かを言うよりその方がいいと思うので。
http://home.att.ne.jp/iota/aloysius/someone/days/days1109.htm
ちなみに毎朝これを乗車率120%の満員電車で立って読んでいた。飛ばしに飛ばして1ヶ月半くらいかかった。ジアレイの待機列やラーメン二郎の待ち列でも読んだ記憶がある。
🐮ジョン・バンヴィル『バーチウッド』
🐮ロス・マクドナルド『さむけ』
🐮ドストエフスキー『悪霊』
過剰に過剰を重ねた長台詞と、長台詞それ自体で形成されたある意味うすっぺらい人物たちが一堂に会して状況や自己そのものを爆発させるという、そのふたつのシークエンスだけで繋いでいるような代物なんだけど、それがめっぽう面白い キャラクターアークでドライヴさせるにしたってどうしてこんなにヤバい速度が出るのかと不思議に思ってしまう
🐮皆川博子『U』
会社勤めが始まってから最初に読んだ小説が『クロコダイル路地』で、12月最後に読み終えたのが『U』だったので、皆川博子に始まり皆川博子に終わった一年と言えるかもしれない。他にも『聖餐城』『双頭のバビロン』『伯林蝋人形館』を読んだ。今も旅行鞄の中には読みさしの『アルモニカ・ディアボリカ』が入っているし、まだまだ読んでいない長編がごろごろあるのが恐ろしい話。来年は『総統の子ら』と『薔薇密室』を読まなきゃね。
🐃2019年観てよかった映画ベスト
えー、映画もね、80本くらいしか観てないです。それもほとんどゲオ宅配レンタルで借りたやつ。しかも制作年代の偏りもすごくてね、ほとんど1950年より前……。劇場で観たのは『ハロウィン』『アベンジャーズ/エンドゲーム』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『マシュー・ボーン IN CINEMA/白鳥の湖』くらいかもしれない。あと新文芸坐で観たリメイク版の『ベン・ハー』。 というわけでね、話半分に聞いてね。斜字はFilmarksの感想から引用。
🐮ウィリアム・ウェルマン『つばさ』
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何だこの頭悪い感想(Filmarksの感想だいたいこんな感じ、許して)
小説の方は皆川博子だったけど、映画はウェルマンに始まりウェルマンに終わった一年という感じ。ジョン・フォードとかと並んで(このへん映画史に対する知識に不安あり)サイレント期からカラー映画の時代まで活躍した監督で、代表作は西部劇(『廃墟の群盗』『西部の王者』など)と戦争もの(『つばさ』『戦争』など)。第一次世界大戦で複葉機のパイロットをしていたという経歴がそうさせるのか、とにかく〈戦死〉を写し取る目線の温度感のなさが凄まじくてね……本当に何を観ても死ぬところが怖い。
『つばさ』は第一次世界大戦の複葉機パイロットもので、ヤンキーが志願してフランス外人部隊の空軍に配属されドイツと戦うって話。複葉機が墜落するところがマジで怖いの……。接写なんてできなかったってのもあるんだけど、遠景で、しゅるしゅる錐揉みしながら墜落していくのを、本当に冷たく撮るんだよね。
ちなみに2019年の映画納めは『翼の人々』っていうあんまり有名じゃない作品をわざわざ10枚組セットのやつを取り寄せて観ました。これもやっぱり墜落が怖いのと、パイロット以外の生き方が選べなくて傭兵になってしまう男が出てきて、それがなんていうかすんごい不幸そうなんだよねえ。ちょっとウッってなる湿っぽさだった。
🐮ウィリアム・ウェルマン『廃墟の群盗』『西部の王者』『牛泥棒』『民衆の敵』『ボー・ジェスト』
ウェルマンの好きなやつ並べていい? 今日はウェルマンのことだけ覚えて帰ってください。
🥩「廃墟の群盗」(1948)
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は?超疲れたんだが?書いてたら年越してた
この時期アメリカでたくさん撮られた禁酒法ギャングもの(暗黒街もの、の方が通りがいいかな)の中でもかなり有名かつ名作なやつ。キャグニーがかわいいです。ジーンハーロウは本当にマジで異常に白く輝いています。
🥩『ボー・ジェスト』(1939)